書棚を整理したら、憲法に関する本が数冊出てきた。
若い時分、憲法のことなんて真面目に考えたことはなかった。
就職のときの一般教養、社会人になってからは、仕事に関係するときだけ読んだりした。
先輩から、何度も読んでいくと内容の深さが解るなんてーことを言われた。
一応、言われたとおり何度か読んではみた。
けれど、宗教の経典じゃないんだし、ちっとも面白くなかった。
そんな中で出会ったのが、小室直樹氏の『 痛快! 憲法学 』だった。
これほど面白い憲法本はないと思った。
いわゆる、目から鱗って感じ。
今は故人となった小室氏。
社会科学の統合という壮大な目標を掲げ、数学、経済学、社会学、心理学、政治学、宗教学、法律学などを世界の超一流学者から学び、自家薬籠中のものとした異能の天才、まさに知の巨人である。
この『 痛快! 憲法学 』は、それまでの「憲法学」とは異なり、日本の憲法と民主主義は「すでに死んでいる」という主張を掲げ、当時の不況、財政破綻、凶悪な少年犯罪といった問題の原因がすべてそこにあるとする、極めて刺激的で今日的な「憲法学」だった。
小室氏が指摘したのは、憲法はその精神を慣習として定着させる努力があってこそ生きるという点と、憲法が国民のためではなく国家権力を縛るためにあるという点。
そこから国家というリヴァイアサンに対峙した人々や議会、革命の歴史にスポットを当てる。
『 社会契約説 』のロック、経済学のケインズなどはそのキーパーソンとして読み解かれている。
とくに西欧で民主主義・資本主義を成立させたのはキリスト教とカルヴァンの予定説であり、日本では明治の「天皇教」がその役割を担ったという論考や、デモクラシーがカエサル、ナポレオン、ヒトラーといった独裁者を生んだという指摘などが大いに注目された。
そして、日本はどうなのか。
終盤では、日本の憲法と民主主義がいつ誰に「殺された」のかが論じられている。
当時の閉塞状況と小泉首相の誕生。日本がなぜそうなったのかを、本書は教えてくれた。
この本は既に廃版だ。
定価は1,700円だったが、今じゃ古本で5千円以上するそうだ。
とてもお薦めできないが、同書を読みやすい愛蔵版にした「日本人のための憲法原論」は今も売られている。
小泉が産んだ安倍長期政権と政府与党、そして菅内閣。
小室氏の指摘から20年。
今の日本はどうなのか。
食欲の秋、スポーツの秋、そして、読書の秋。
もう一度、じっくり読んでみたい。
お薦めの一冊だ。
ところで、戸松 秀典氏の『 憲法 散歩をしながら考える 』 もいい。
憲法学者である戸松 氏のコラムをまとめたものだ。
日常生活の様々な問題をテーマにしていて、コロナ禍に関するものも少なくない。気楽に読める。
第6回 みんなの広場 ―― 自由と規律
1 散歩で目にする広場・公園
2 公園の利用規則
3 自由と規律
第7回 パチンコ店の前で ―― 生きる自由と生存権
1 パチンコ店の前を通ったとき
2 生きる自由の限界
3 生存権 の 実現
第9回 繁華街の盛衰 ―― 営業活動の自由
1 閉店と開店
2 営業活動の自由
3 多種・多様さと変化への対応
第32回 新型コロナウイルス感染問題
1 異常な情勢
2 新型コロナウイルス感染対策
3 非常事態の憲法秩序 などなど。
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