『 鬼伝説 』小考 vol 2/ 西海道古代史の迷路

 

 

 

ー 物部氏とは ー

 

上代、氏族の一つ。姓(かばね)は連(むらじ)で、軍事・警察・裁判をつかさどる伴造(とものみやつこ)として朝廷に奉仕した。

 

饒速日命(にぎはやひのみこと)の子孫と称し、天皇の親衛軍を率い、大伴氏とともにさかえたが、六世紀の中ごろ、仏教の普及に反対し、族長の大連(おおむらじ)であった守屋(もりや)が蘇我氏と皇族の連合軍と戦って敗れ、そのために滅亡した。

 

畿内の河内国渋川(大阪府八尾市西部)を本拠とし、全国に八十物部(やそもののべ)と称されるほどの同姓氏族ないしは隷属民をもっていた。

     (精選版 日本国語大辞典)

 

 

物部氏は、古代史を考えるうえで、極めて重要な豪族である。

 

とは言え、九州から遠く離れた大和国山辺郡・河内国渋川郡あたりを本拠地としたことや、9世紀前半以降中央貴族としては衰退したこともあって、あまり関心を抱いてはこなかった。

 

  ※   ※   ※   ※   ※   ※ 

 

 

その物部氏に関わる事柄を多く記載する史書に『 先代旧事本紀 』がある。

 

江戸時代の国学者である多田義俊、伊勢貞丈、本居宣長らによって偽書とされが、近年、序文のみが後世に付け足された偽作であると反証され、研究資料として用いられるようになった。

 

その第一巻 天神本紀 < 饒速日尊、葦原の中国に降臨す>に、「天物部ら二十五の人々が、同じく兵杖を帯びて天降り、仕えた」と記されている。

 

福永晋三氏は、饒速日尊(ニギハヤヒノミコト)が率いた天物部25部族を下記のように推定してる。

 

 

ー 饒速日尊の率いた天物部25部族の推定所在地 ー

 

     <天物部25部>           <推定所在地>

 

  1.  [二田物部](ふた)        鞍手郡小竹町新多二田ケ浦
  2.  [当麻物部](たぎま)       未詳
  3.  [芹田物部](せりた)       宮若市芹田
  4.  [鳥見物部](とみ)        直方市頓野
  5.  [横田物部](よこた)       飯塚市横田
  6.  [嶋戸物部](しまと)       遠賀郡遠賀町島門
  7.  [浮田物部](うきた)       未詳
  8.  [巷宜物部](ちまたき)      未詳
  9.  [足田物部](あしだ)       未詳、鞍手郡疋田説あり
  10.  [須尺物部](すさか)       糟屋郡粕屋町酒殿
  11.  [田尻物部](たじり)       未詳、みやま市田尻?
  12.  [赤間物部](あかま)       宗像市赤間
  13.  [久米物部](くめ)        未詳、糸島市久米?
  14.  [狭竹物部](さたけ)       鞍手郡小竹町
  15.  [大豆物部](おおまめ)      嘉穂郡桂川町豆田
  16.  [肩野物部](かたの)       北九州市小倉北区片野
  17.  [羽束物部](はつかし)      遠賀郡岡垣町波津
  18.  [尋津物部](ひろつ)       鞍手郡鞍手町八尋?
  19.  [布都留物部](ふつる)      鞍手郡鞍手町古門?
  20.  [住跡物部](すみと)       未詳
  21.  [讃岐三野物部](さぬきのみつの) 未詳、福岡市博多区美野島?
  22.  [相槻物部](あいつき)      朝倉市秋月?
  23.  [筑紫聞物部](ちくしのきく)   北九州市小倉南区企救
  24.  [播麻物部](はりま)       未詳、筑紫野市針摺?針磨とも書いた
  25.  [筑紫贄田物部](ちくしのにぎた) 鞍手郡鞍手町新北

 

 

また、下記のとおり、福岡県の三潴郡、鞍手郡、遠賀川流域、そして豊前には、物部氏を祀った神社が多い。これは物部氏がこれらの地域に勢力を揮っていた証跡だと考えられる。

 

物部氏が、もし福岡県とはゆかりのない畿内に天降ったのだとすれば、このように物部氏ゆかりの神社が多く存在する理由がない。

 

さらに言えば、奈良県と大阪府の庄内土器が多く出土する地域や饒速日尊が天降ったとされる生駒山には、共通の地名がいくつも存在し、九州にも存在する。

 

これをみると、物部氏の祖先は、先ず九州に渡来して基盤を築き(甘木→豊前への第1次東征あり)、それから河内へと遷り、そして大和を制圧したのではないのだろうか。

 

この見方は、安本美典氏の『 邪馬台国は福岡県朝倉市にあった 』や福永晋三氏『 邪馬台国田川説 』などの東征説とも平仄が合う。 

 

 

 

「 酷似する北部九州と畿内の地名/西海道古代史の迷路はこちら>

 

 

ー 北部九州(福岡県)で物部氏を祀る神社 ー

<古名地域> <神社>     <祭神>             <所在地>           

 

筑前糟谷  熊野神社   「饒速日命、速玉男命、伊弉冉命、   糟屋郡古賀町大字筵内

                                 事解男命、宇麻志麻智命」 

筑前鞍手  剣神社    「倉師大明神」  直方市下新入字亀岡 (倉師は高倉下のくらじ)

筑前鞍手  古物神社   「布留御魂神社、剣神社」八幡宮   鞍手郡鞍手町大字古門

筑前鞍手  熱田神社   「天照大神ほか」  鞍手郡鞍手町大字新北 (元剣神社)

筑前鞍手  八剣神社   「日本武尊」    鞍手郡鞍手町大字中山

筑前鞍手  八剣神社   「日本武尊」    鞍手郡鞍手町大字小牧

筑前鞍手  八剣神社   「日本武尊」    鞍手郡鞍手町大字木月

筑前鞍手  鞍橋神社                               鞍手町長谷

筑前鞍手  天照御魂神社 「天照国照彦火明櫛玉饒速日尊」  鞍手郡宮田町大字磯光

筑前鞍手  笠城神社   「饒速日命」    鞍手郡宮田町大字宮田 天照御魂神社上宮 

筑前鞍手  笠城権現神社 「饒速日命」    鞍手郡宮田町大字宮田

筑前鞍手  穂掛神社   「饒速日命」    鞍手郡宮田町大字宮田 天照御魂神社中宮 

筑前遠賀  高倉神社   「大倉主神、莵夫羅姫命」  遠賀郡岡垣町大字高倉

                                                                            (大倉主神は高倉下のこと)

筑前遠賀  岡湊神社   「大倉主命」    遠賀郡芦屋町船頭町  (高倉神社の下宮)

筑前遠賀  八剣神社                              遠賀町今古賀

筑前遠賀  埴生神社   「布津御魂神合祀」 中間市大字垣生字八広

筑前遠賀  十五社神社  「布留大神」    中間市大字下大隈字村前

筑前夜須  白木神社   「天照國照彦」   甘木市上秋月2408

筑前嘉穂  馬見神社                               嘉穂町大字馬見1594

 

筑後御井  赤星神社   「天津赤星=筑紫弦田物部の祖」  久留米市高良内町759(坂口)

筑後御井  高良大社   「高良玉垂命、物部胆咋連?」   久留米市御井町

筑後三瀦  石上神社   「十種神寶」    大川市大字下牟田口

筑後三瀦  高良玉垂神社 「高良玉垂命」   三潴郡三潴町大字田川

筑後三瀦  高良玉垂命神社「高良大神」    三潴郡城島町大字楢津

筑後三瀦  高良玉垂神社 「高良玉垂命」   三潴郡三潴町大字田川

筑後三瀦  高良玉垂命神社「高良玉垂命」   大川市大字郷原

筑後三瀦  伊勢天照御祖神社「天火明命」   久留米市大石町

筑後御原  媛社神社   「媛社神=饒速日命、織女神」 小郡市大崎 (磐船神社、棚機神社)

筑後御原  福童神社   「天照国照彦火明命」   福岡県小郡市福童

筑後御原  福童神社   「天照国照彦火明命」   福岡県小郡市大崎字東

豊前京都  大原八幡神社 「大原足尼命、饒速日命、誉田別命」都郡苅田町大字新津字恩塚

豊前京都  白庭神社   「天照國照彦天火明櫛玉饒速日命」 京都郡苅田町大字与原字御所山

豊前京都  若宮八幡神社                             京都郡勝山町 大字宮原字上原

豊前京都  大原八幡神社                         京都郡勝山町大字大久保字宮畑

豊前京都  八雷神社                               行橋市大字長木字宮ノエン

豊前京都  大原八幡神社 「饒速日命」    京都郡苅田町大字新津字恩塚

豊前田川  英彦山神宮  「天火明命」    田川郡添田町大字英彦山

豊前田川  高住神社     「天火明命」    田川郡添田町大字英彦山

豊前田川  八幡神社                               田川郡大任町大字今任原 

 

 

タイトルから話が大きく逸れてしまったが、数年前、そんな「物部氏」をあらためて考えてみようと買った数冊のうちの一冊が、この『消された王権・物部氏の謎 』だった。 

 

 第 1 章   循環する王権システム

 第 2 章   祟る神・入鹿の謎

 第 3 章   神の一族・物部と出雲の正体

 第 4 章   ヤマトを建国した鬼の正体

 第 5 章   もう一つの鬼の国・伽耶と天皇家の秘密

 第 6 章   鬼がつくった永続する王権

 

物部氏を縦糸に、天皇、鬼、祟る神などを横糸に論じる。 

しかし、この本のサブタイトル「オニの系譜から解く古代史」の「鬼」こそが主題だと思える。

 

何はともあれ、いつもながの関ワールド満載。

他の「鬼本」とは、ひと味違った面白さがある。

 

 

 

  <「 ー 西海道 古代史の迷路 ー」はこちら>