ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってからおよそ2か月。
軍によるミサイル攻撃や凄惨な殺戮が続く中、戦争の様相はますます混迷し、さらに長期化していく要素が強まり、出口は見えない。
茂木 誠 氏は、著書『 戦争と平和の世界史 』の中で以下のとおり述べている。
ー 最新の古人類学の成果によれば、 最古の石器は約330万年前に東アフリカのケニアで作られました。近辺から石器で傷つけられた動物の骨が出土していることから、狩猟または調理に使われた道具であると推測できます。
人類同士の殺し合いに石器が使われた確実な証拠が見つかったのは、スーダンの砂漠で発見された 1万5000年前のジェベル・サハバ117遺跡です。
ここで発見された59体の遺骨のうち、23体は大量の細石器(矢じりや槍の刃として使われた小型石器)とともに出土し、骨まで貫通しているものもありました。
(中 略)
戦争が始まったのは農耕による余剰農産物が生まれてからで、狩猟採集の時代は平和だった、というこれまでの常識は覆されました。フランス革命に大きな影響を与えた思想家ジャン・ジャック・ルソー は、文明以前の 自然状態における人類が、善良で無垢の精神を持ち、争いのない生活をしていたのであり、私有財産の発生があらゆる罪悪を生んだのだと想像しました( ルソー『人間不平等起源論』光文社古典新訳文庫)。
この思想を受け継いだマルクスとエンゲルスは、原始共産主義という理想郷を想定しました。富が蓄積される農耕社会が始まってから戦争が大規模化したことは事実ですが、「狩猟採集時代が平和だった」というのは近代人の妄想です。 ー
茂木 誠 氏によれば、類人猿(ゴリラ・チンパンジー・ボノボ・オランウータン)の中で、集団で殺し合うのはチンパンジーだけだそうだ。
ー 見かけによらずおとなしいゴリラやボノボ(ピグミーチンパンジー)には、 このような行動は確認されていません。
同種間で殺し合いをするのはチンパンジーと人間だけです。 ー
そのチンパンジーと人類は、98.8%同じゲノムを持つ。
ところで、映画「猿の惑星」のラストシーンで、猿の惑星で実権を握るオランウータンの博士ザイアスは、この惑星にはかつて人間の文明があったことを知っていたと告白する。
さらに、猿の文明の創始者の言葉の中に「 人間は危険な存在だ 」と言う趣旨の内容があったと言う。
そして、「 なぜ人間の文明は滅びたのか 」とザイアスはテイラーに問う。
やがて、テイラーは驚くべきものを目にする。
「ちくしょう、ついに我々はやってしまったんだ!」
テイラーは絶望に打ちひしがれ砂浜に崩れ落ちる。
そこにあったのは、自由の女神像が半分砂に埋まった姿だったのである。
そう、そこは見知らぬ猿の惑星などではない。変わり果てた未来の地球だったのだ。
映画「マトリックス」の中では、エージェントのスミスが拉致したモーフィアスに語りかける。
< スミス >
私がここにいる間に受けた啓示を分かち合いたい。
君たちの種を分類してみようとしたときピンときたのだ。
君たちは本当は哺乳類ではないことがわかった。
この惑星にいる哺乳類は本能的に周囲の環境と自然に適合ていくが君たち人間はそうではないな。君たちはある場所に住みつくと繁殖また繁殖を繰り返し、ついにはあらゆる資源を食い尽くしてしまう。
そうなると残る手段はまた新たな繁殖場所を求めてゆくしかないのだ。
< スミス >
この惑星には同じような形態を持つもう一つの有機体がある。
それが何かわかるかな? ウィルスだよ。人間とは病原体なのだ。
この星にとっての癌だよ。君たちは疫病でわれわれはその治療者とでも言おうか。
食料や資源の争奪、民族、領土、宗教… 原因は様々だが、人類の歴史は戦争の歴史である。
人類は、その叡智により時の経過とともに進歩するというのは幻想に過ぎない。
現下の状況を見るにつけ、核戦争の勃発も映画の中のことだと言えなくなってきた。
そして、スミスの言うように、我々人類はこの地球(ほし)を蝕むだけの無用の生き物なのかもしれない。
<「 ふと想起される言葉 」はこちら>
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